こんなときだからこそ
友人に会いに行って、いろいろ話をする。
わたしには楽しいこともかなしいこともあったとんでもない1週間だったから、どうでもいい話をしたかった。
友人はなんだかんだ彼氏とも順調で仕事もなんとかやってて、調子が良さそうでよかった。
そして相変わらずきれいだ。
こんなときに限って、友人の知人が自害したという話とか、まおさんが亡くなった話とか、なんでするんだろう。
いつもならなんでもなくきいてるのに、聞くのが少しつらい話、なんでするんだ。
親戚の男性が自殺したということ、誰かに話したいような、隠し通したいような、どっちなんだろう。
でもたぶん人には話せない。
友人は口が軽いわけではないけど、わたしより悲しんでしまいそうなので話せないなあと思った。
わたし、彼氏ができたんだけど、彼氏にも絶対話せない。
彼氏はまだどんな人かあんまりよくわからないから。話せない。
仕事先の人になんか絶対教えてやらない。
こんなこと話せそうな人は、ひとりもいない。
死んだ人はひどい顔をしていた。
目をそらしたいくらいひどい紫色の顔で、でも眠ったように死んでた。
覚えてる顔より老けていた。
子どもの頃は優しそうな顔をしてたなあと思い出した。
初孫の長男でずいぶんとちやほやされてた。
わたしなんかよりずっとかわいがられて大切にされてた。
それがなんでこんなことになったんだろう。
髪は薄くなってた。白髪も少しあった。
父親の家系が髪薄いから、仕方ないなあと思った。
母親は白髪が全然なかったけど、やはり父親似なのかなって。そんなことを考えた。
たくさんのドライアイスで胸のあたりが変に膨らんでた。
かわいそうだ。と思った。
どんなにつらかったのかな。かわいそうだ。
死んだとき着てた服と、首をくくったロープを帰り際に渡された。
係の人が悲しそうな顔をして「見るのもお辛いでしょうが」と言った。
わたしは「何も思ってないくせにわかったような顔しないでください、わざとらしい」と思いながら、「大丈夫です」と言った。
「こちらで処分することもできます」と。
「お願いします」と。
そういうお仕事の慣れてる人なんでしょう、
わたしも葬儀屋で働いてたことあるからわかる。
みんな「引きこもりニートで自殺」なんて興味本位でわたしたちのこと見てるんだろうと思う。
母親も重い病気で他に子どももいないんだって。不幸な家だね。
なんて噂してるんだろうな。
どうか彼の遺体は大事に扱っていて欲しいと思う。
わたしにはどうにもできないけど、どうか。
葬儀は木曜日になった。
それまで1人で、誰も知らないあんなに寂しいところに置かれているのはかわいそうだ。
わたしは本当の本当の他人みたく、かわいそうだと何度も思った。
絶対絶対忘れない。