喪失
幸せだった頃に日記をつければよかったなあと今さらになって思う。
忘れたくない、忘れたくない、
初めて手をつないだときどんな気持ちだったっけ、覚えてない
見つめあったときの不安、触れあったときの、これからどうなるんだろうという、恐怖に似た感覚、
やわらかい水をかぶったように
一瞬でぜんぶの力が抜けていく、泣きたいような、かなしいような、
からだの中心にそっと、息を吹きこんでゆくような、
コントロールはきかなくて、
わたしのからだではなくなってしまったようで、ぐるりとあっという間に逆さまに、なる。
くすぐったくて、はっとした。
きみとじゃなきゃ意味ない。
幸せだったときから、失うことが怖かったんだ。わたしってやつは。どうにも。不甲斐ないや。